ホテルではその時代にふさわしい食の習慣や文化が育まれ、又宿泊のお客さまにまつわる新しいメニューが誕生してきました。上流階級の人々が自身のお城や宮殿で行っていた風習を、一般のお客さまの為にホテルでも提供したり、又特別なお客さまのリクエストによりシェフが特別に考案したメニューがあります。その特別な料理やお菓子にはお客さまの名前が付けられました。今年最初のコラムはそんなホテルにまつわる料理やお菓子についてご紹介していきます。その第1回目は、今ホテルで大人気の「アフタヌーン・ティー」のお話です。
1837年、わずか18歳で大英帝国の君主の座に就いたヴィクトリア女王。その同じ年に、ロンドンで最初の高級ホテルとしてオープンしたのが「Browns Hotel ブラウンズ ホテル」。ブラウンズ・ホテルは、良くアフタヌーン・ティー発祥のホテルと言われています。ヴィクトリア女王もホテルの「イングリッシュ・ティールーム」でアフタヌーン・ティーを度々楽しんだと言われています。
アフタヌーン・ティーの起源は諸説ありますが、19世紀当時の食事は、ランプの普及や夜の社交により夕食の時間が遅くなる風潮にあり、朝食と夕食の2回。食間があまりに長く、空腹に耐えかねた第7代ベッドフォード公爵フランシス・ラッセルの夫人、アンナ・マリア・ラッセル(ヴィクトリア女王の女官を務めていました)によって、1840年頃に始められたと伝えられています。
日本では、キリンの「午後の紅茶」のパッケージにも登場している女性です。当時の上流社会では、夕方にオペラや観劇を嗜む習慣があった為、朝ごはんを食べた後は、鑑賞が終わった夜8時以降に社交の時間も兼ねた遅めの夕食を摂るライフスタイルが定着していました。ベッドフォード公爵夫人が、空腹時に友人を招いてアフタヌーン・ティーを供したものが、貴婦人の間で社交文化として人気を博し、やがて19世紀後半には中産階級の間にも広まりました。伝統的には上流階級における社交行事であり、紅茶と食事との取り合わせ、給仕のそれを含めた礼儀作法、室内装飾、家具調度品、使用されている食器や飾られている花、美しい庭園など、広範な分野の教養と社会的地位を表した、まさに“もてなしの場”として催されました。又アフタヌーン・ティー用のティーカップやティーガウンといった物も作られました。
当時の社会では、女性の社交活動が制約されていることが多く、アフタヌーン・ティーは彼女たちにとって貴重な機会となっていたようです。次第にアフタヌーン・ティーの習慣は多くの女性に定着し、美しいホテルや邸宅でのアフタヌーン・ティーを通じて、社会的な結びつきを築き、情報を交換しました。20世紀以降は、アフタヌーン・ティーは、時間のゆとりと優雅さを象徴する風習として発展していきました。
アフタヌーン・ティーのサンドウィッチには必ずキュウリのサンドウィッチが入っています。因みに、キュウリのサンドウィッチはヴィクトリアン時代に貴族の間で流行ったもので、自分の農園を持っているような富裕層でなければ、新鮮なキュウリをパンに挟んで食べられない時代にこれが贅沢なことだった為、現在でもその伝統は踏襲されています。現在、アフタヌーン・ティーは季節や食材をテーマに多くのホテルで頂くことが出来る様になりました。
私が勤務していたパークハイアット東京では、ハリー・ウィンストンとコラボレーションし、キュウリやその他のサンドウィッチやスコーンをはじめ、ハリー・ウィンストンの宝石の如く美しいペストリーやマカロンといったお菓子が提供されています。又SNSなどで注目されている「ヌン活」(様々なホテルやレストラン・カフェのアフタヌーン・ティーを選び、楽しむ活動のこと)という言葉まで登場しています。
2024年、新年のスタートにふさわしいハーブティ、その名もDearm夢を叶える!を味わいました。皆さまはもう素敵な初夢をご覧になりましたか。バラの華やかな香りが素晴らしく、ジンジャーやシナモンといった冬の時期にぴったりのハーブも入っていて身体も温まり、エネルギーが湧いてきます。このハーブティを愛飲し、今年もそれぞれが心に抱く夢を叶えたいですね。
新年のご挨拶のプレゼントにも相応しいでしょう。