ホテルではその時代にふさわしい食の習慣や文化が育まれ、又宿泊のお客さまにまつわる新しいメニューが誕生してきました。上流階級の人々が自身のお城や宮殿で行っていた風習を、一般のお客さまの為にホテルでも提供したり、又特別なお客さまのリクエストによりシェフが特別に考案したメニューがあります。その特別な料理やお菓子にはお客さまの名前が付けられました。そんなホテルにまつわる食べ物、飲み物についてご紹介しています。
第4回目は、18世紀フランス、ヴェルサイユ宮殿にてフランス国王 ブルボン家のルイ15世にこよなく愛されたコーヒーにまつわるお話です。
国王ルイ15世(最愛王Le Bien Aiméの別名を持つ)は、コーヒー愛好者で、王である自らがコーヒーを淹れてお客さまをもてなすこともあったそうです。そのルイ15世の公式寵姫であったポンパドゥール夫人とデュ・バリー夫人、どちらもコーヒー・カップを手にした肖像画が残されています。ルイ15世の時代のヴェルサイユ宮殿の庭園にはコーヒーの木が植えられていました。特にルイ15世が好きだったコーヒーは「ブルボンポワントゥ」。18世紀にフランス・ブルボン島(現在のインド洋のレユニオン島)で発見され、その類稀な香りの高さと甘みのある風味から、“幻のコーヒー”と呼ばれました。(ブルボンポワントゥは、現在世界中で飲まれている代表的なコーヒー豆の一種、ブルボン品種の原種に近い品種です。豆はとがっており大変堅くて小さいのですが、コーヒーは非常に香り高く、フルーティなのが特徴です。口に含むと、渋味がなく、ほんのりと甘みがあり、後味もさわやか。1840年頃に生産量はピークを迎えましたが、度重なるサイクロンの被害や害虫の発生などの影響で次第に減少し、ついに1942年を最後に栽培が途絶えてしまいました。)
ルイ15世はコーヒーの道具にもこだわりがあり、優秀な職人に作らせていたほど熱心だったようです。 王とデュ・バリー夫人のコーヒー・マニアは国の財政にも少なからぬ負担をかけたともいわれています。1754年から55年にかけて、黄金のコーヒー・ポット、アルコール・ランプ、銀の葉飾りのついたコーヒー・カップ、新型のスプーンなどが次々に発注された記録も残されています。パリの上流社会では「コーヒー」という概念は、「社交」という形で、カフェ文化の土台を形成し、後にパリで華開いたサロンへと発展していきました。
最近公開されたハリウッド映画に、ルイ15世の公式寵姫、ヴェルサイユのトップ・レディーであったデュ・バリー夫人を題材にした「ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人」原題:Jeanne du Barryが封切られました。全編フランス語のハリウッド映画は珍しく、フランス国王ルイ15世を演じたのはアメリカ人俳優のジョニー・デップでした。映画の中でも、ジャンヌ・デュ・バリーことマリー・ジャンヌ ベキュMarie-Jeanne Bécu が、ポンパドゥール夫人亡き後のルイ15世の公式寵姫となり「デュ・バリー夫人」と呼ばれ、 ザモル( Zamor )というアフリカ出身の小姓に差し出された盆から、銀のコーヒー・ポットを取り、銀のスプーンで掻きまわしているシーンがあります。毎日の日課に自身のイニシャル付きのカップでコーヒーを愛飲していたそうです。かつて王立陶磁器専門の窯元であったセーブルには、現在セーブル陶磁美術館があり、その一端を見ることができます。
フランスへ旅する機会があれば、ヴェルサイユ宮殿に隣接した場所に、ル グラン・コントロルLe Grand Contrôle というまさに18世紀にタイムスリップできる最高級ホテルを訪ねてみてはいかがでしょうか。当時の衣装をデザインに取り入れたユニフォームに身を包んだスタッフが出迎えてくれます。マリー・アントワネットの好みを取り入れたアフタヌーン・ティーや18世紀の伝統的な豪華な装飾が施されたラウンジでぜひコーヒーを味わうことをお薦めします。4月は新しい年度の始まり、春は学生、社会人にとって新たなスタートの季節でもあります。お花見など人との集いの機会もより多くなることでしょう。かつて王族、貴族がサロンでコーヒーをお供に、教養や文化を育んできた様に、現在に生きる私達もコーヒータイムをゆったり味わう時間を大切にしていきたいものです。
何といっても苦味と酸味のバランスが素晴らしいコーヒーです。非常に飲みやすく、上品な味わいです。コーヒー豆本来の香りは香ばしく、飲むとフルーツのような芳醇な香りに変化していきます。
まずは香りからアロマを楽しみ、そしてゆっくりと味わいたいコーヒーです。